家形をくずし、強さを柔らかさを獲得する
敷地は多摩の丘陵地。
目の前は電車の車両基地で、伸びやかな眺望が広がる。敷地がかつての丘のままであれば、その傾斜に寝そべり電車を眺める。そしてきっとタープを張る。
タープを張ると瞬時に居場所ができる。鋭角に張れば閉じ、緩めれば開くといった具合に周囲に対しての距離の取り方も自在である。安易に組み立てられ、雨風に耐える強度も持つ。そんな居住性と合理性を持った建築を目指した。
具体的には、切妻屋根から棟木のみを敷地傾斜に合わせ登り梁とする。桁梁は平行のまま。そこに掛かる垂木は徐々に角度をつけHPシェルを形成する。棟木が傾斜しブレースと同様の役割を持たせ軸組自体で安定する架構となるため、垂木は梁の上に載せてビスを打つだけで済む。HPシェルが持つ曲面と相まって、軽やかで柔らかな幕をかけたような天井が実現した。外に出ると、軒先は棟木と逆方向に勾配がつくのでそれに沿わせて樋をつけるだけ。豪雨であっても無理なく雨水を受け流す屋根になる。
床は4つのレベルの平場を作り、山道のように階段でひと続きにつなげる。そこに緩やかな角度の屋根がかかれば、気積が大きくのびやかな団欒に相応しい場となる。逆にきつくなれば、周囲から離れ親密な暗がりに身を隠せる。平場が刻々と変わる屋根の角度や距離と関係を作ることで、おおらかなワンルーム空間でありながら、様々な生活行為を受け止めるられる質を持った空間が連続して現れる。
自然の中に「場」を見つけ、タープをかけることで人間の「居場所」となる。強くも柔らかい屋根が暮らしに相応しい環境をつかまえた。